高圧処理の利点
食品の加工に圧力を利用すると、熱を利用した際とはまったく異なる現象が起こります。
加熱と比較したときの高圧処理の特徴としては、以下が挙げられます。
- ①共有結合が開裂しない
- 香気成分や色素成分、栄養成分、機能性成分の損失が少なく、異臭や安全性を脅かす物質は生じません。
- ②圧力は瞬時に均一に伝わる
- 圧力容器内のすべての部位で均一な処理ができ、また食品の大きさや形状に関係なく圧力が伝わるため、調理にムラがありません。
- ③エネルギーの消費が少ない
- 圧力の維持には理論的にはエネルギーが不要です。また、圧力は瞬時に均一に伝わるため、省エネルギーでの処理が可能です。
食品への高圧処理の利用は、安全を求め、生の風味を尊ぶ食品の加工法として有効であるといえます。また、タンパク質やデンプンに高圧処理を施すと、熱による加工とは物性の面で異なる状態を作り出すので、今までにはない食品素材の開発が期待されます。
高圧処理により生じる現象とその活用例
殺虫・殺菌・低菌化(200~800MPa)
200MPa以上の高圧処理により、細菌、カビ、酵母、ウイルスなどは死滅もしくは損傷します。食品を汚染する微生物の殺菌、寄生虫の殺虫により、食品の腐敗を防止することができます。さらに、高圧処理と加熱処理やパルス処理などを併用することで、より高い効果が得られることも分かっています。また、高圧処理は、加熱処理に比べて色や香り、栄養成分を残したまま殺菌することができるので、生の風味を尊ぶ食品の加工法として有効です。
- <実用化例>
- ジャム、果汁加工品、蓬餅、貝・甲殻類(牡蠣)、ハチミツ、畜肉加工品(ハム、ソーセージ)、アボカド加工品 など
- <高圧処理の利点を生かした関連商品>
- 色がきれいなよもぎもち、高峰ルビーはちみつ、かき剥き身、カナダ産 UHPオマール、豚もつ煮込 味噌仕立て
微生物の制御(20~500MPa)
20MPa以上の圧力下では、微生物の増殖が抑制されるので、食品を腐敗させずに保存することができます。また、耐圧性の異なる微生物に対し、選択的に殺菌を行うことで、発酵食品中の微生物を制御することもできます。
- <実用化例>
- 生酒、キムチ、ヨーグルト、イワシ・アサリ等の液化
酵素の失活(400~800MPa)
400MPa以上の高圧処理により、タンパク質の一種である酵素の活性が低下します。酵素を失活させることにより、食品中の有用成分が酵素により分解するのを防止できます。
- <実用化例>
- グレープフルーツジュース
酵素反応の促進(50~400MPa)
圧力処理により農産物の組織を破壊することで、細胞内外に存在する酵素と基質の酵素反応が促進され、有用成分を増加させることができます。
また、50℃程度に加温しながら100MPa以下の圧力処理を長時間行うと、微生物の繁殖を抑えながら酵素反応を促進させることができ、食品を腐敗させずに分解・液化することができます。
- <実用化例>
- GABA富化玄米、無菌化包装米飯、アボカド加工品、イカ珍味、イワシ・アサリの液化
タンパク質の変性(50~800MPa)
圧力処理によりタンパク質の変性やゲル化現象がおこります。卵の凝固の例のように、圧力処理によって変性したタンパク質は、熱変性したタンパク質とは異なる物性を示すことを利用して、新しい食感の食品を作ることも可能です。また、牡蠣やアサリのような二枚貝を高圧処理により開殻・脱殻する技術も実用化されています。
- <実用化例>
- 魚肉加工品、畜肉加工品(ハム、ソーセージ)、モツ、スッポン、貝・甲殻類(牡蠣)
- <高圧処理の利点を生かした関連商品>
- カナダ産 UHPオマール、かき剥き身、豚もつ煮込 味噌仕立て、すっぽんスープ
結着・組織の破壊(5~600MPa)
圧力処理による物理的な作用として、組織の結着や細胞壁のような硬い組織の破壊がおこります。組織の破壊により、うまみ成分やアクなどの抽出効率が向上します。また、豆類のような吸水に長時間を要する食材では、吸水性の向上、液体の含浸、酵素反応の促進、食感の改善に効果があります。
- <実用化例>
- スッポン、無菌化包装米飯、白だし、ドレッシング、雑穀加工品
液体の含浸、含有空気の排除(5~100MPa)
食品を液体に漬けた状態で圧力処理を行うことで、通常は時間をかけないと含浸しないような濃度や粘度が高い液体の含浸を促進させることができます。
- <実用化例>
- ジャム、無菌化包装米飯、雑穀加工品
- <高圧処理の利点を生かした関連商品>
- ふつうに炊ける八穀玄米、無菌化包装米飯、大庄十穀ごはん・有機栽培魚沼産こしひかり玄米ごはん